いまさら聞けない会計実務シリーズ【資産除去債務】
最終更新: 7時間前

資産除去債務は平成22年4月1日以降開始事業年度より強制適用が始まっております。 適用初年度で資料を整備したもののその後の運用が曖昧になっていたり、前任者から引き継いだ資料の意味が分からない点があったりということも多いかと思います。
1、基本的な解説(いわゆる入門書に記載される各会計基準の基本的な内容)
2、手続きの流れ(いつのタイミングで何を準備し、どういった検討を行うのか)
3、それぞれの手続の解説
という順番で説明して参ります。
1、基本的な解説
1-1.資産除去債務の基本的な枠組み
資産除去債務とは「有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産(→(2)①)の除去(→(2)②)に関して法令または契約で要求される法律上の義務(→(2)③)およびそれに準ずるもの」と定義されます。
手続きとして、有形固定資産の除去に関して法律上の義務等(資産除去債務)が存在する場合に、その現在価値を負債に計上し、同額を有形固定資産の帳簿価額に加えることとなります。
1-2.資産除去債務の対象
①対象科目
「資産除去債務」は有形固定資産に関連して生じるものとなってますが、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産のほか、それに準じる有形の資産も含みます。 したがって、建設仮勘定やリース資産も含むものとされています。
科 目 適用対象となる資産科目
有形固定資産: 建物、構築物、器具備品、機械装置、リース資産、建設仮勘定等
無形固定資産: –
投資その他の資産: 投資不動産等
②対象となる事象
「除去」の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれるが、転用や用途変更は含まれないとされています。
除去に含まれるもの 除去に含まれないもの
売却 一時的に用益提供から除外する場合
廃棄 転用
リサイクル 用途変更
その他の方法による処分 遊休状態
③法律上の義務等
法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれるとされています。
2、手続きの流れ
資産除去債務のポイントは概ね下記の3ステップに分類されます。
(1)対象科目・対象債務の抽出
(2)資産除去費用の見積り
(3)資産除去債務算定シートの作成
資産除去債務の特徴としては、新たな設備の導入時、新たな法律や契約の制定・締結・変更等の新たな事象が生じない限り、当初設定した計算シートどおりの会計処理が行われる点にあります。すなわち、当初の資産除去に関する対象科目・対象債務の抽出を漏れなく正確に行うことが重要となります。
(1)対象科目・対象債務の抽出は重要ですが、会計処理上のテクニカルな項目の解説を行う本メールマガジンでは実務対応の詳細は省力します。 対象となる有形固定資産項目のそれぞれについて(多くは有形固定資産が構成する使用目的ごとに)、除却・解体時に「法令や契約、法律上の義務に準ずるものによって」原状回復や環境対策の義務、これに対応する債務の内容を把握することになります。
(1)で抽出された固定資産除却に係る義務に応じた(2)資産除却費用を見積もり、(3)会計テクニカルな計算シートを作成することにより会計処理のためのデータ(資料)を揃えます。
以上、資産除去の手続の流れと準備すべき項目(資料)を記載すると下記のようになります。
予算編成時 月次決算 四半期決算 期末
(1)対象科目・対象債務の抽出 新設備導入時、新たな法律や契約の制定・締結・変更
等の資産除去費用に係る変更がある場合
(2)資産除去費用の見積もり 同上
(3)資産除去債務算定シート作成 同上
決算スケジュールの中で特定の時期に行う業務があるわけではなく、資産除去債務の金額に変更を生じうる事象が生じた時点で随時行われる会計事象であることがお分かりになるかと存じます。
3、それぞれの手続きの解説
次に、各ステップの具体的な検討内容、作成する資料の解説です。
3-1.対象科目・対象債務の抽出
対象科目・対象債務の抽出は重要ですが、会計処理上のテクニカルな項目の解説を行う、当ホームページでは実務対応の詳細な記述はいたしません。法令による義務及びこれに準ずるものについては、会社の属する業種・業態に固有の特有の施設・固定資産等によって異なってくると思われます。
契約による義務は各社共通するものも多く「定期借地権契約による原状回復義務」「建物等の賃貸借契約による原状回復義務」が例として挙げられます。
今回は、以下のケースを以下で取り上げていきます。 ■該当資産:本社ビル 建物付属設備 ■該当費用:本社ビル 退去時の原状回復費
3-2.資産除去費用の見積り
会計基準上「資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定する」とされています。
将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出のほか、処分に至るまでの支出が含まれます。
ⅰ)生起する可能性の最も高い単一の金額
ⅱ)生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額
の2種類が例示で挙がっております。簡便なⅰ)生起する可能性の最も高い単一の金額が採用されることが多いと思料されます。
具体的には、平均的な処理作業に対する価格の見積りや除去サービスを行う業者など第三者からの情報(見積書や業者のカタログ等)などが用いられます。
例えば下記のようになります。

3-3.資産除去債務算定シートの作成
資産除去債務算定シートの作成は、(1)割引率の算定 (2)資産除去債務額の算定を行ったのちに(3)利息費用の算定 (4)減価償却費の算定を行い、各期の会計処理に必要な数値を算定することになります。
(1)割引率について
割引率は、信用リスクを反映させない「無リスクの税引前の割引率」です。原則として、(除却による)将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の利回りなどを参考に決定します。
実務的には、対象となる有形固定資産の取得時から除却時までの期間に対応する国債の利回りを使用することが多いと思います。国債の利回りを算出するに当たっては、近似する償還期限の加重平均により算定する方法が考えられます。

(2) 資産除去債務額の算定
資産除去債務は資産除去費用を(1)で算定した割引率により現在価値に割り引いて算定します。

上記で算出した資産除去債務額が有形固定資産の取得時(資産除去債務の発生時)に発生する債務額であり、負債に計上するとともに同額を有形固定資産の取得原価に含めて計上することとなります。
(3)利息費用の算定
(4)減価償却費の算定
有形固定資産の取得時点での資産除去債務額を基礎に取得時以降の各年度において会計処理を行うための「利息費用」と「減価償却費」を算定します。費用額を算定するためのシートの作成が必要となります。


上記前提に基づく各年度の会計処理は下記のとおりとなります。
①本社ビル移転時(=資産除去債務発生時)
借)建物付属設備 106,348,902 貸)未払金 100,000,000
資産除去債務 6,348,902
②最初の期末(2014年3月末【3ヶ月分】)
-時の経過による資産除去債務の増加
借)費用(利息費用) 17,729 貸)資産除去債務 17,729
-資産計上した除去費用の減価償却
借)費用(減価償却費)106,344 貸)減価償却累計額 106,344
③翌事業年度末(2015年3月末)
-時の経過による資産除去債務の増加-
借)費用(利息費用) 71,115 貸)資産除去債務 71,115
-資産計上した除去費用の減価償却費-
借)費用(減価償却費)425,376 貸)減価償却累計額 425,376
以上が資産除去債務の基本的な流れの解説です。 最後に注記を取り上げたいと思います。
3-4.資産除去債務に係る注記について
(1)注記項目について
資産除去債務については、下記事項を注記します。
資産除去債務の会計処理に関連して、重要性が乏しい場合を除き、次の事項を注記する。
資産除去債務の内容についての簡潔な説明
支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件
資産除去債務の総額の期中における増減内容
資産除去債務の見積りを変更したときは、その変更の概要及び影響額
資産除去債務は発生しているが、その債務を合理的に見積ることができないため、貸借対照表に資産除去債務を計上していない場合 ・当該資産除去債務の概要 ・合理的に見積ることができない旨及びその理由
(2) 資産除去債務算定シート
(1)で掲げた注記事項のうち計数に係る情報②③(見積りの変更が合った場合における④)については、前回ご紹介した「資産除去債務算定シート」より情報を入手できます。
(注記例)



②支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件
「使用見込期間を取得から15年と見積もり、割引率は1.117%を使用して資産除去債務の金額を算定しております。」
③資産除去債務の総額の期中における増減内容
前連結会計年度 当連結会計年度
平成25年4月1日 平成26年4月1日
平成26年3月31日 平成27年3月31日
千円 千円
期首残高 - 6,366
有形固定資産の取得に伴う増加額 6,348 -
時の経過による調整額 17 71
債務履行による減少額 - -
期末残高 6,366 6,437