いまさら聞けない会計実務シリーズ【税効果会計】
最終更新: 7時間前

◆1.税規差異の理解◆
①税金費用のプルーフテストの意義
税金費用のプルーフテストとは、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間に生じる差異(以下、税率差異といいます)を合理的に説明することで、税効果会計が適切に適用されているかどうかを検証することを言います。税効果会計が適切に適用されているかどうかを検証することができるにもかかわらず、税金費用のプルーフテストは一般的に経理担当者の方にとって、苦手意識の高い項目の一つではないでしょうか。難しいと思われる要因はいろいろとあると思いますが、税務に精通している必要があることや、税効果会計に関する理解も相当求められることの両方にその問題は潜んでいるように思います。しかし、税金費用のプルーフテストをマスターすることが出来れば、税効果会計の適用に関連する誤りを相当程度軽減できる可能性がありますので、以下で一緒に税金費用のプルーフテストについて考えてみましょう。
②税率差異が発生する理由
まずは税率差異がなぜ発生するのかについての説明からスタートしたいと思います。
繰り返しになりますが、税率差異は、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異です。ここで、法定実効税率は、個別税効果会計に関する実務指針に記載されている計算式に、その時点で実際に適用されている法人税、住民税、事業税のそれぞれの税率を代入することで求めることが出来ます。
他方で、税効果会計適用後の法人税等の負担率とは、損益計算書上の「法人税、住民税及び事業税」と「法人税等調整額」の合計額のことです。つまり、法定実効税率は理論的な税負担率である一方で、税効果会計適用後の法人税等負担率とは、実際値としての税負担率です。課税所得と税引前当期純利益が一致するような理想的な状況を仮定すれば、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率は一致すると考えられます。しかし、実際の実務では両者が一致することは極めて稀であり、通常は乖離しています。
では、なぜ両者は乖離するのが一般的なのか?
それは、損益計算書に計上される当期の法人税等の負担額(=法人税、住民税及び事業税に法人税等調整額を加えたもの)は単純に税引前当期純利益に一時差異(会計と税務の差異が時間の経過によって解消するもの)を調整したものに法定実効税率を乗じることで求めるわけではないためです。例えば、永久差異がその典型例と言えるでしょう。永久差異とは会計と税務の差異のうち、永久に解消しないものであり、交際費の損金不算入や寄付金の損金不算入などが該当します。これらは税効果会計適用上の対象とはならないことから、税率差異発生の要因となってしまいます。逆に言うと、申告調整項目がすべて一時差異であり、その一時差異のすべてに税効果会計が適用されているのであれば、税率差異は発生しないこととなります。
文章での説明では理解が難しいと思いますので以下で具体的な数値を用いた事例をもとに税率差異の発生の仕組みを考えてみましょう。
<税率差異の発生の仕組みについての事例>
いま、税引前当期純利益が5,000であり、税務申告上調整する必要がある項目が交際費の損金不算入(1,000)のみの会社があると想定してください。法定実効税率は35.64%とし、議論を簡単にするために、住民税均等割等は考えないこととします。そうすると、この会社の簡単なPLは以下のようになります。
<損益計算書>
税引前当期純利益 5,000
法人税、住民税及び事業税 2,138
法人税等調整額 0
当期純利益 2,862
交際費の損金不算入額は永久差異であるため、税効果会計が適用されません。そのため、損益計算書上の法人税等調整額は0となります。
また、法人税、住民税及び事業税については、
(税引前当期純利益5,000+交際費の損金不算入額1,000)×35.64%=2,138
となります。これを前提として、税効果会計適用後の法人税等の負担率及び税率差異を求めると以下のようになります。
税効果会計適用後の
法人税等の負担率 42.77% → 2,138÷5,000で求めることができます。
法定実効税率 35.64%
税率差異 7.13% → (1,000×35.64%)÷5,000にて求めることができます。
このように、永久差異がある場合は税率差異を発生させる要因となることがわかります。税金費用のプルーフテストでは、上記の事例と同じように、発生した税率差異が合理的なものかどうかを検証し、合理的ではない理由で差異が発生している場合は、税効果会計の適用の漏れがある可能性を示唆してくれるのです。
◆2.税率差異の具体例◆
次に具体例を用いて説明していきます。
税金費用のプルーフテストをする上で、頻出する税率差異項目を覚えておくことは有意義です。頻出する税率差異項目を覚えておくことで、差異のあたりをつけることが可能となるためです。そのため下記にて代表的な税率差異を列挙してみたいと思います。
① 永久差異
前回の説明の通り、永久差異については、税率差異の要因となります。永久差異として税率差異の要因となる項目として、他には寄付金損金不算入、受取配当金益金不算入などがあります。
② 住民税均等割
住民税均等割は法人の利益に関係なく課される税金です。住民税均等割の税額は利益に連動しないものの、損益計算書上、「法人税、住民税及び事業税」として税引前当期純利益の下に記載されることとされています。したがって、税率差異の発生要因となります。これについては具体的な数値例で考えてみたいと思います。
<住民税均等割が税率差異となることの事例>
いま、税引前当期純利益が5,000であり、税務申告上調整する必要がある項目はないが、住民税均等割が500ある会社を想定してください。法定実効税率は35.64%とします。そうすると、この会社の簡単なPLは以下のようになります。
<損益計算書>
税引前当期純利益 5,000
法人税、住民税及び事業税 2,282
法人税等調整額 0
当期純利益 2,718
税務上申告調整する項目がないため、税効果会計が適用されません。そのため、損益計算書上の法人税等調整額は0となります。また、法人税、住民税及び事業税については、税引前当期純利益5,000×35.64%+500=2,282となります。これを前提として、税効果会計適用後の法人税等の負担率及び税率差異を求めると以下のようになります。
税効果会計適用後の法人税等負担率 45.64% →2,282÷5,000
法定実効税率 35.64%
税率差異 10.00% →税率差異の10%は500÷5,000にて求めることができます。
③ 評価性引当額の増減
すべての一時差異について適切に税効果会計を適用している場合は税率差異は発生しません。しかし、一時差異であるにもかかわらず税効果会計が適用されない場合があります。繰延税金資産の回収可能性の議論です。繰延税金資産は将来の回収可能性があるものだけを計上することとなっており、たとえ一時差異があったとしてもその一時差異に係る繰延税金資産につき回収可能性がないと判断される場合は繰延税金資産を計上することはできません。この一時差異ではあるけど繰延税金資産が計上されない(繰延税金資産から回収不能となるものを控除する)金額を評価性引当額といいます。この評価性引当額がある場合、税率差異の発生の要因となってしまいます。以下具体的数値例で検証してみましょう。
<評価性引当額の増減が税率差異となる具体例>
いま、税引前当期純利益が5,000であり、税務申告上調整する必要がある項目が、賞与引当金1,500のみの会社を想定してください。法定実効税率は35.64%とし、議論を簡単にするために、住民税均等割は考えないこととします。もっとも、この賞与引当金に関する一時差異はその全額が回収不能であるとします。そうすると、この会社の簡単なPLは以下のようになります。
<損益計算書>
税引前当期純利益 5,000
法人税、住民税及び事業税 2,317
法人税等調整額 0
当期純利益 2,683
賞与引当金は一時差異であるため税効果会計の適用が行われるべきですが、ここではそれが全額回収不能であるため税効果の認識をしていません。そのため、損益計算書上の法人税等調整額は0となります。また、法人税、住民税及び事業税については、(税引前当期純利益5,000+賞与引当金1,500)×35.64%=2,317となります。これを前提として、税効果会計適用後の法人税等の負担率及び税率差異を求めると以下のようになります。
税効果会計適用後の法人税等負担率 46.33%
法定実効税率 35.64%
税率差異 10.69% → (1,500×35.64%)÷5,000にて求めることができます。
◆3.税金費用のプルーフテストの具体例◆
最後に、具体的に税率差異の発生要因などを考えてみたいと思います。
<前提条件>
・税引前当期純利益: 156,000,000(法定実効税率:35.64%)
・法人税、住民税及び事業税 17,065,928(内、住民税均等割:1,350,000)
・法人税等調整額 60,478,828
・申告調整項目:交際費損金不算入60,000 役員賞与損金不算入700,000 他
・評価性引当額の増加額: 20,325,492
税率差異の分析の前にわかりやすいのは税額についての差異を考えてみることです。
税額の差異を理解してから、税率差異の理解にすすめると、初めての方にとっては、理解が容易になります。
まずは、「理論的な法人税等負担額(A」を算出してみましょう。
=税引前当期純利益 × 法定実効税率 = 156,000,000×35.64% = 55,598,400
となります。
一方、損益計算書で計上されている法人税等の金額(B)は
=法人税、住民税及び事業税+法人税等調整額 = 17,065,928+60,478,828=77,544,756となっています。
理論値(A)と実際値(B) との差異 21,946,356がどのように生じてきたのか、これを分析してみたいと思います。
第一に、住民税均等割です。これは、理論値を計算する際に税引前当期純利益に法定実効税率を乗じたことを思い出して下さい。住民税均等割は税引前当期純利益には連動せずに税額が決定されるものです。そうであるにもかかわらず、損益計算書上では「法人税、住民税及び事業税」に含まれることとなります。そのため、理論値からの乖離の原因となります。
第二に、交際費と役員賞与です。これらは永久差異として、税効果会計の適用の範囲には含まれないこととなります。そのため、理論値を計算する際の税引前当期純利益よりも課税所得のほうが大きいこととなり、実際値としての税負担額が上昇することとなります。そのため、理論値からの乖離の原因となります。もっとも、乖離する金額については、これらの損金不算入額そのものではなく、税額ベースで影響を及ぼすものであるため、それらに税率を乗じたものとなります。
第三に、評価性引当額の増減です。これは、すべての一時差異に対して、税効果会計が適用されていれば、理論値と実際値との乖離は生じないという前提を逆に考えるとわかります。つまり、一時差異に対して、税効果を認識しないということであれば、理論値から乖離するということになります。
これらの3つの要因による金額を計算すると、
交際費・役員賞与(21,384+249,480)、
住民税均等割(1,350,000)、
評価性引当額の増加額(20,325,492)
となり、合計すると、21,946,356となり、理論値と実際値との乖離をすべて説明したことになります。
次に、それぞれの税額ベースでの金額から税率ベースでの影響を求めてみたいと思います。それぞれの差異要因の金額ベースによる影響額を税引前当期純利益で除することで求めることが出来ます。計算すると、
交際費・役員賞与 (21,384+249,480) / 156,000,000 = 0.17%、
住民税均等割 1,350,000 / 156,000,000 = 0.87%、
評価性引当額の増加額 20,325,492 / 156,000,000 = 13.03%
となります。
これで法定実効税率である35.64%と税効果会計適用後の法人税等負担率との差異について、すべて説明することができたことになります。今回のケースではすべてが合理的に説明できましたが、説明できないケースが生じることがあります。そのような場合は、分析自体が誤っている場合と本来税効果会計を適用し、繰延税金資産を計上しなければならない項目があるのにもかかわらず税効果会計の適用を失念している場合の両方が考えられます。そのため、合理的に説明が出来ない場合は両者のケースをそれぞれ想定して、分析を行うことになります。